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lesson3 いざ!出陣!
☆ ★ ☆
「はい、着きました。それでは松浦くん、武藤さんの事お願いしますね」
「……分かりました」
そう返した松浦くんの横顔には明らかに『めんどくせぇなぁ』と書いてあった。
さて、30分も掛けて到着した塾。
あたしのおうちの近所は、この時間になると裏山の松林から虫の合唱なんかが聞こえ始めてきたりする静かでのどかな町ってところ。
だけど、ここは夜に向かって栄える、っていうのか。大衆食堂とはいえない様なアンティークな雰囲気のレストラン。そしてゴシックな洋館みたいな造りのパチンコ店。映画館やボウリング場を敷地内に何件も備えた大型ゲームセンターなどがあって、行き交う車や人が多い流行最先端って感じの“街”。
水垢でくすんだバスの窓からぼんやり見えたのは、コンクリート打ちっ放しの質素な3階建てのビル。
ここが塾? ……確かに。
“真剣ゼミナール”。
そう縦書きに書かれた緑色の看板が、塾の入り口の横にひっそり立て掛けてある。
中は一体どうなってるんだろう。
早く入ってみたい様な……いやいや! どっちかと言えば入りたくない、っていうのが本音だけど。
“必勝”とか書いてあるハチマキだけは絶対したくない。
「ありがとございました……」
カタコトの日本語で運転手さんに深く頭を下げてバスを降りる。
松浦くんは彼に軽く会釈をして降りてから、あたしをジロッと睨んで舌打ちをした。
この人が塾になんか通ってなかったら、こんな目に遭わなくて済んだのに。
――――舌打ちしたいのはこっちの方ですっ!
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