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「ふぅ」
もう疲れた。いい加減帰りたい。
塾の中に入る前から松浦くんのせいでかなりの精神的ダメージを負った。
お母さんの言ってた通り。とても長く感じた道のりだった。
ただしこれだけは……“松浦くんが一緒だから安心”は大間違い。だって、想像超える程に心地悪かったから。
はーあ。こんな遠くまで来ちゃったよ……。
いちごカバンを腕の中に隠して抱きしめる。
いちごいちえ――――
食べるイチゴの事かと思ってたけど。
些細な出会いでも大切に思いながら人と関わる、か。
人でも何でも新しいことに出会えるっていうのはありがたい事なんだよって、お父さんが教えてくれたこの言葉。
こんな栄えた街の人達から見たら、あたしなんてつまんない女の子なのに。
『あたしと関われて嬉しい』
そんな風に思ってくれる人なんかどこ探しても居ないよ……。
塾の入り口の脇にある自転車置き場が騒がしい。
どうやらここに通うあたしと松浦くん以外の生徒達の殆どは自転車で来てるみたいだ。自転車で通う人が多過ぎて、自転車置き場の中に収まらなかった自転車は駐車場のスペースを利用して停めてある。バスは、あたし達が乗ってきた1台……あとは先生達の車が3、4台しかないわりに異様に広い駐車場。そして狭過ぎる自転車置き場。
「へんなの……」
ふっと塾の最上階辺りを見上げた時、気が付いた。
「え? パブ? ……ヤード? なんだコレ」
目を凝らして見てみると、壁に1部か2部消えかけたピンク色で書かれた文字が残っている。それこそ塾にはとても似合わない赤いハイヒールとキスマークのデザインが添えられて。
どうやらこの塾は塾になる前にオトナが仕事帰りとかに通う怪しげなお店? だった様だ。これで駐車場がやけに広い意味がやっと分かった。でも――――
「やっぱり、へんなの……」
余計にそう思った。
バカにして笑っただけ。今日この塾に通い始めたあたしを案内してくれるはずなのに、気配りの気の字も見えない松浦くんは、案の定、サッサと一人で塾の中に入って行ってしまった。
あんな人と毎回バスで行き帰り合計1時間も一緒だなんて。
あたしは、これまで腹の底に溜まり続けた彼への怒りを絞り出す様に溜息をついた。
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