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交錯
「ねえ、友くん。空ってほんと綺麗だったなぁ。あんな青色はこの街にはないね」
ゲゼルシャフトの人工灯は、太陽光を忠実に再現したものと言われているが、白色を基調としており、その光に鮮やかさはない。施設内部の光源として青色のものは交差点に設置された信号灯くらいだ。
「青色なんて、俺が色鉛筆で書いてやるさ」
「友くんの青色もいいんだけどね、見てみたいんだぁ。本物の空」
偽物の空すらこの場所には存在しない。頭上にあるのはどこまでも続く灰色の天井だけ。人はいつしか有限の水槽の中で、無限を空を想像しながら生きる存在になってしまった。
「外に出たらあぶねぇって話、今日聞いたばかりだろ?」
「でも私たち、本当は空の下で生活していたいのかなって。私も空の下で深呼吸とかしてみたいなって思ったんだよ。だって、あんなに大きいんだよ、空って」
希里は両手を大きく広げて、上層に覆いかぶさる灰色の天井を見上げた。
「馬鹿か、お前は。そんなことしたらな、アチチチってなって、やけどすんぞ。紫外線なめるなっての」
「でも、あのずっと上に、空があるんだよね。一度だけ、一度だけでいいから見てみたい」
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