そして、彼女は消えた

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   『この前発表した作品で、私は初めて自分と向き合いました。  過去、現在、未来……今まで考える事を避けてきたことを、執筆期間、ずっと考えました。  作品が世に出て。次の作品を書こうと思いました。  しかし、書けませんでした。  そこで気付きました。  「日ノ宮 遥」は私の中で死んでしまったのだと。  今まで、ありがとうございました。そしてこのような形で消えていくことをお許しください。  関わった全ての方に、青い鳥が幸せを運んでくれますように。  日野 遥香』  「……無理だ」 「え」  差出人を書かなかったのは、彼女の中で作家である彼女が死んだ、という事を伝えようとしたのだろう。  だが。  「あいつは、『書かないと生きられない』」  彼女の鋭すぎる感覚は、本人を苦しめる。それを吐き出す場所が、彼女にとっての小説なのだ。  それが幸運な事でないことは確かだった。それでも彼女がそのような過酷な星の元に生を受けてしまっている事もまた、事実だ。  呆然と俺を見つめる森内に背を向け、俺は本と便箋、折り鶴だった紙を鞄に仕舞う。  ガラス張りのドアから見える外はもう、暗闇だった。 了
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