そして、彼女は消えた

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 「お疲れ様です、足立さん」 「おう。戻って来たか」  定時を10分ほど過ぎた頃に、森内は俺の机にやって来た。本日の仕事を終えたらしい。  「ちょっと待て」と声を掛け、残りの仕事を確認する。急ぎのものが無いことを再度確認し、抽斗の中に入れてあった例の手紙を取り出す。  「あれから、昼休みにも電話をかけたが、電源は切られたままだった」 「そうですか……。どうしたんでしょう、日ノ宮さん」 「さぁな……。疲れたのかもな。今回、結構引っ張り回されてたろ」  もう一度、封筒の中身を取り出してみる。  隅々にまで目を通してみるが、やはり新しい情報は何一つ得られなかった。たった2行の文字と、青い折り鶴……。  「そう言えば、お前の手紙にもこの鶴って付いてたのか?」 「え?ええ、付いてましたよ。まったく同じ折り鶴が」 「色もか?」 「はい」  それに、違和感を覚えた。  「……編集長の所にも、同じ手紙が届いてた。折り鶴の色も同じだ」  こういったものを個人個人に渡す場合、その人間のイメージに合った色などにするのが一般的だ。買ったものを上から折ったとしても、折り紙や千代紙は通常、様々な色が交互に入っている。青だけ、というのはおかしい。  「青だけを選んで入れたのか……」 という事は、彼女はこの青い鶴で何かを伝えたいと考えるのが普通だろう。  「どうするんですか?」 「とりあえず、家に行こう。車は出す」  鞄に手帳とスマートフォン、少し迷ってから朝にそこに立てた彼女の小説を放り込んだ。そして代わりに車の鍵を取り出す。  「タイムカード、押すの忘れるなよ」 「わかってますよ」 そう言った森内が、「足立さんのも押しておきますよ」と言ってオフィスの入り口に歩いて行った。  きれいに折り畳んだ手紙を封筒に仕舞い、机の上に並べてある彼女の小説を眺める。  彼女が18歳で文壇に上ってから3年前に森内に担当を引き継ぐまでの11年間。俺は彼女と共に作品を作ってきた。資料集めに奔走したり、実際に現地に赴いたり、彼女と夜遅くまで議論することもあった。  文字通り、2人3脚でやってきた。  お互いにお互いをよく理解していたはずだった。  それなのに。  この手紙と青い鶴の意味が、俺には全く分からなかった。
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