0人が本棚に入れています
本棚に追加
駐車場に車を停め、俺たちは急いでマンションのエントランスを潜った。
エレベーターで5階に上り、彼女が住んでいる部屋のチャイムを鳴らした。しかし、返事はない。
「電話かけます」
森内がそう言って社用のスマートフォンを耳に当てるが、すぐに首を振る。電源が入っていないらしい。
「日ノ宮!!おい!!」
安いマンションではない。ドアにはそこそこの厚みがある。叫んだって中に聞こえないことはわかっていた。それでも、頭の中で響く嫌な声が俺に声を張らせていた。
10分ほどそうしていると、エレベーターが開く音がした。そうしてそこの50代くらいに見える管理人らしき男と、俺と森内の丁度間位……30代くらいの背広姿の男が降りてくる。背広の男がこちらを指さして何かいい、もう1人がそれに頷く。管理人らしき男が、ゆっくりと近づいてきた。
「静かにしてくれるか、お2人。廊下に響いて五月蠅いって言われてる」
「あ、すみません……。あの、ここの部屋の人は……」
「そこの部屋の人なら、昨日出て行ったよ。日野さん、だっけ?女の人」
「いい人だったんだけどな」と管理人は残念そうに言った。背広の男は、いつの間にか消えていた。
「あの、行先とかは……?」
「さぁ?何も言ってなかったな。ただ、中の家具だとかは殆ど処分してったよ。本もかなり売り払ってたし。持って行ったのは多分、炊飯器とかそういうものだけじゃないかな」
炊飯器を持って行った、という管理人の発言に、俺の中で騒いでいた奴が静かになる。彼女は……少なくとも死ぬつもりで手紙を出した訳ではないようだ。
「申し遅れました。私、新海出版の足立 泰史と申します。彼女とは仕事で関係があったのですが、今朝手紙が届いていまして。その手紙が少々不可解だったもので、こうして伺わせていただきました。お騒がせして申し訳ありません」
後ろで、森内も一緒に頭を下げたのが分かった。
するとそれを聞いた管理人の顔色が変わった。大きく目を見開き、驚いたような顔をしている。
「アンタが、足立さんか」
まじまじと俺を見て、徐に彼は口を開いた。
「此処の人から、1週間以内にアンタがここに来たら、渡してくれって言われているものがある。一緒に来てくれ」
最初のコメントを投稿しよう!