そして、彼女は消えた

7/9
前へ
/9ページ
次へ
 駐車場に車を停め、俺たちは急いでマンションのエントランスを潜った。  エレベーターで5階に上り、彼女が住んでいる部屋のチャイムを鳴らした。しかし、返事はない。  「電話かけます」 森内がそう言って社用のスマートフォンを耳に当てるが、すぐに首を振る。電源が入っていないらしい。  「日ノ宮!!おい!!」  安いマンションではない。ドアにはそこそこの厚みがある。叫んだって中に聞こえないことはわかっていた。それでも、頭の中で響く嫌な声が俺に声を張らせていた。  10分ほどそうしていると、エレベーターが開く音がした。そうしてそこの50代くらいに見える管理人らしき男と、俺と森内の丁度間位……30代くらいの背広姿の男が降りてくる。背広の男がこちらを指さして何かいい、もう1人がそれに頷く。管理人らしき男が、ゆっくりと近づいてきた。  「静かにしてくれるか、お2人。廊下に響いて五月蠅いって言われてる」 「あ、すみません……。あの、ここの部屋の人は……」 「そこの部屋の人なら、昨日出て行ったよ。日野さん、だっけ?女の人」 「いい人だったんだけどな」と管理人は残念そうに言った。背広の男は、いつの間にか消えていた。  「あの、行先とかは……?」 「さぁ?何も言ってなかったな。ただ、中の家具だとかは殆ど処分してったよ。本もかなり売り払ってたし。持って行ったのは多分、炊飯器とかそういうものだけじゃないかな」  炊飯器を持って行った、という管理人の発言に、俺の中で騒いでいた奴が静かになる。彼女は……少なくとも死ぬつもりで手紙を出した訳ではないようだ。  「申し遅れました。私、新海出版の足立 泰史と申します。彼女とは仕事で関係があったのですが、今朝手紙が届いていまして。その手紙が少々不可解だったもので、こうして伺わせていただきました。お騒がせして申し訳ありません」 後ろで、森内も一緒に頭を下げたのが分かった。  するとそれを聞いた管理人の顔色が変わった。大きく目を見開き、驚いたような顔をしている。 「アンタが、足立さんか」 まじまじと俺を見て、徐に彼は口を開いた。  「此処の人から、1週間以内にアンタがここに来たら、渡してくれって言われているものがある。一緒に来てくれ」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加