ブルーハワイなんて大嫌いだ

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 小学五年の夏休みは、海の香りに包まれて過ごすことに決まった。  パパが急に海外に出張することになって、ママがついていくことになったのだ。わたしは、おじいちゃんとおばあちゃんのお家でお留守番することになった。  おじいちゃん達のお家は、海の近くにある。開け放した車の窓から潮の香りがなだれこんできたら、もうすぐ二人のお家に着く頃だ。 「お手数をおかけしますが、香澄(かすみ)をよろしくお願いいたします」 「気にすることはないよ、香織(かおり)さん。かわいい孫が遊びにきてくれたんだもの、迷惑どころか大歓迎だ」 「香澄、おばあちゃんとおじいちゃんの言うことをちゃんと守るのよ」 「はーい!」  お母さんはわたしを送り届けると、乗ってきた車にそそくさと引き返していった。急に決まった出張だから、ぜんぜん準備ができていないらしい。     おばあちゃんは、二階の大きな和室に通してくれた。  戸を開いた瞬間、窓の向こうに陽ざしを吸い込んできらきらと光る碧い海が見えた。それがあまりにもきれいで、少しの間、ぼうっとなってしまった。 「ここが、香澄ちゃんの部屋だよ。いま台所でスイカを切ってくるから、ちょっと待っててね」 「おばあちゃん」 「うん?」 「わたし、海に行きたい!」  おばあちゃんはきょとんと目を見開いた後、眉尻を下げて困り顔をした。 「実はいま、受け取らなきゃいけないお荷物を待っていてね。おじいちゃんも出かけているから、届くまでお家を出られないんだよ」 「じゃあ、わたし一人で行ってくる!」 「一人で大丈夫?」 「大丈夫だって! わたし、もう、小学五年生なんだよ?」  じいっと丸い目をのぞき込んだら、おばあちゃんはむうと考え込んだ後、不安そうに言った。   「暗くなる前には絶対に帰ってこなきゃダメだよ?」 「もちろん!」    おばあちゃんは「仕方ないねえ」と言いながら、麦わら帽子を取ってきて貸してくれた上に、お小遣いまでくれた。ふふふ。おばあちゃんは、わたしに甘々だ。
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