ブルーハワイなんて大嫌いだ

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 渚くんと出会ってから、三週間が経ったある日。  波打ち際を歩きながら、最初に会った時から気になっていたことを聞いてみた。 「渚くんは、海に入ろうとは思わないの?」  水着を着ている人たちに混じって、いつも彼だけがピアノかヴァイオリンでも弾いていそうな空気をまといながらすました服を身に着けている。たしかによく似合ってはいるけれど、やっぱりどう考えても海に遊びに来る格好ではない。  「そうだね」  白い砂浜に立って、凪いだ海を見つめる渚くんはどこか淋しそうだった。 「なんで?」 「なんでも」 「まさか、泳げないの?」 「うーん。まぁ、そんなところ」 「渚くんは、そんなところばっかだね」  わたしが唇を尖らせたら、彼は、でも、と付け足した。  渚くんが一度言葉を切って、振り返った。  海から吹いてきた風が、彼の柔らかそうな髪を運んでいく。  打ち寄せてきた波しぶきの跳ねる音が、わたしの心臓をやけにざわつかせて―― 「これだけは、確実に言える。かすみちゃんと出会えて、本当に良かった」  その笑顔があまりにもきらきらと光って見えて、胸が苦しくなった。 「お、大袈裟じゃない? わたし達、知りあってから数週間しか経ってないのに」 「でも、かすみちゃんは、僕に付き合って毎日かき氷を食べに来てくれた。海に入ろうとしない僕と、たくさん遊んでくれたでしょ?」  本当にありがとう、と微笑む彼が眩しくて、なぜだか泣きそうになった。
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