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海に潜ると異臭が鼻につきました。それまで気にも止める事が出来なかったんだと思います。
目が慣れていくと色々なものが見えてきます。一生懸命濃いで底まで着き、なりふり構わず肉片や細長いものなどを掻き分けて、見つけた骨を拾いバッグの中に入れます。骨に何か付いている時は取り除くようにしました。
ある程度拾うと空気を吸う為に顔を出してから、また潜ります。ふと考えが過りました。
この骨は、先輩が付き合っているって言う恋人のなんじゃないか?と。
先輩には同じ学年の別クラスにいる恋人がいると、学校内で噂になっていました。
時折先輩のクラスに現れ、そして夏休みに入ってから、先輩と一緒に町から姿を消したと言われていました。
僕は辺りも探索して、拾える骨は全部拾ったと判断して、海から出る事にしました。
先輩のいる防波堤の位置へと上がり、「骨は一通り全部拾いました」と言って、バッグを開けて骨を見せます。
先輩はバッグを見たまま長く沈黙します。
そして、こう言われました。
「今までありがとう」
先輩の姿が消えてなくなりました。
僕は訳が分からなくなりました。唖然ともしました。
そして、初めて気が付きました。
あの骨は先輩・・・・僕の兄のだと。僕は今でも兄を兄として見ていません。
死んだ兄が僕に骨を拾わせたのです。
後日、警察から僕達家族に兄の恋人が、兄を殺したと言う連絡が来ました。
兄と防波堤で口論になり、素行の悪い兄から普段から身を守る為に、持っていたナイフで腹を何度も突き刺したようです。
そして身元を隠す為に持っている物や服を全部剥ぎ取ってから海へ沈めて、隣町へ長い間隠れていた。
けれど兄の亡霊がずっと目の前に現れて、辛かったので自ら警察に連絡したと聞きました。
兄の方はずっとその現実を受け止めきれていなくて、確認する事が自分で出来なかったので僕に命令したんだと思います。
それで死んだ兄は家に帰りたかったけど、帰った所で生きている時と同じ様になれないと分かっていたので、電話で頼んだと思います。
元々兄は家に帰ってこない事が多かったです。連絡が取れないのもあって、両親とは違って僕は兄に気を掛ける事はありませんでした。
けれど兄との関係が上手くいっていたら、こんな事件は起きなかったし、もっと違っていたかもしれないと思いました。
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