1.フられた直後に美少年の彼氏ができた話

4/5
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「一目見た時から好きだった。凛とした涼しげな空気を纏う、美しいひと。遠くから君を見つめるだけで僕はよかったんだ。僕なんて桐山さんと話すのも分不相応だし」 「……はあ」  美少年に美しいと言われても嬉しくない。  けれど、と呟いて、神田くんは顔を歪めた。瞳が怒りに揺らめき、声が震える。 「桐山さんの恋人は、どいつもこいつもクズばかり。好きになってもらおうという努力もせず、あれこれ言って君をフるなんて、脳味噌腐ってるんじゃないかなぁ」  仮にも一度は彼氏だった人たちをめったくそに言われ、苦笑する。  すると、怒りとは別の熱がこもった瞳で、神田くんが私を見つめてきた。 「恋が何だかわからない、それは奴らの愛が足りなかったからだよ。だから、僕と付き合ってみませんか?お試しで」 「……私、君のこと好きじゃないよ?」 「知ってるよ」  あっさりと神田くんは頷いた。  怒るかもしれないと思っていたから、酷く戸惑う。 「付き合っても楽しくないって、よく言われるけど」 「そんなこと言う奴らが死ねばいい」 「……そんなに私のことが好き、なの?」 「うん。君に死ねって言われたら死ねるよ?」 「それはやめて」  溜息をついて考え込む。  神田志貴と付き合うか否か。  まず、私は彼のことを何も知らない。当然好きでも嫌いでもない。そして、類稀な美少年に好きだと言われて、まあ悪い気はしない。しないが、その程度。珍しい魚が見れて嬉しいな、みたいなものだ。  そもそも私はフられたばかりだ。一日どころか十分も経たずに新しい彼氏を作るのは、さすがにひととしてどうかと思う。  よし、断ろう。  神田くんの顔を見ると、彼はうつむきがちに返事を待っていた。長い睫毛が白い頬に影を落とし、さらりと前髪が流れる。  ドクンと、心臓が妙な音を立てた。 「あ、れ」 「どうしたの?桐山さん」 「あ、いや。えーと……付き合おう、か?」  あれ。おかしいな。  言おうとしていたことと真逆の言葉が口から飛び出たような。  慌てて訂正しようと口を開き、神田くんの顔を見て止まってしまった。 「ほん、とう?」  緩く二度、まばたきをして。  この世で一番素敵なプレゼントをもらったみたいに、笑った。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!