9人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「一目見た時から好きだった。凛とした涼しげな空気を纏う、美しいひと。遠くから君を見つめるだけで僕はよかったんだ。僕なんて桐山さんと話すのも分不相応だし」
「……はあ」
美少年に美しいと言われても嬉しくない。
けれど、と呟いて、神田くんは顔を歪めた。瞳が怒りに揺らめき、声が震える。
「桐山さんの恋人は、どいつもこいつもクズばかり。好きになってもらおうという努力もせず、あれこれ言って君をフるなんて、脳味噌腐ってるんじゃないかなぁ」
仮にも一度は彼氏だった人たちをめったくそに言われ、苦笑する。
すると、怒りとは別の熱がこもった瞳で、神田くんが私を見つめてきた。
「恋が何だかわからない、それは奴らの愛が足りなかったからだよ。だから、僕と付き合ってみませんか?お試しで」
「……私、君のこと好きじゃないよ?」
「知ってるよ」
あっさりと神田くんは頷いた。
怒るかもしれないと思っていたから、酷く戸惑う。
「付き合っても楽しくないって、よく言われるけど」
「そんなこと言う奴らが死ねばいい」
「……そんなに私のことが好き、なの?」
「うん。君に死ねって言われたら死ねるよ?」
「それはやめて」
溜息をついて考え込む。
神田志貴と付き合うか否か。
まず、私は彼のことを何も知らない。当然好きでも嫌いでもない。そして、類稀な美少年に好きだと言われて、まあ悪い気はしない。しないが、その程度。珍しい魚が見れて嬉しいな、みたいなものだ。
そもそも私はフられたばかりだ。一日どころか十分も経たずに新しい彼氏を作るのは、さすがにひととしてどうかと思う。
よし、断ろう。
神田くんの顔を見ると、彼はうつむきがちに返事を待っていた。長い睫毛が白い頬に影を落とし、さらりと前髪が流れる。
ドクンと、心臓が妙な音を立てた。
「あ、れ」
「どうしたの?桐山さん」
「あ、いや。えーと……付き合おう、か?」
あれ。おかしいな。
言おうとしていたことと真逆の言葉が口から飛び出たような。
慌てて訂正しようと口を開き、神田くんの顔を見て止まってしまった。
「ほん、とう?」
緩く二度、まばたきをして。
この世で一番素敵なプレゼントをもらったみたいに、笑った。
最初のコメントを投稿しよう!