2.彼氏(仮)に翻弄される話

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2.彼氏(仮)に翻弄される話

「神田志貴くん?ああ、八組の。いきなり何?」  次の日。教室で友人の亜美に志貴のことを尋ねると、怪訝な顔をされた。 「どう思う?」 「どうって……まあ、綺麗だよね。イケメンっていうより美少年って感じ。でも、急にどうしたのよ」 「……ちょっとね」  説明が面倒なので適当に濁す。  不満そうな亜美をいなしていると、急に教室が騒がしくなった。主に女子が。  そして、騒ぎの元凶は私の前に現れた。 「おはよう、月乃」  ふわりと微笑みかけてくる、幸薄系美少年。  まばたきをしても消えないから、白昼夢ではなさそう。 「あ、こちらは亜美さん?確か月乃のお友だちだよね?」 「だから何で知ってるの……」  当の亜美はあんぐり口を開けたまま固まっている。のみならず、クラス中からの視線がビシバシ刺さって痛い。  が、志貴は気にした風もなく亜美に向き直り、 「お昼休みに月乃を借りていいかな?一緒にご飯食べようかと思って」 「まず本人の意思を確認してよ」 「お弁当作ってきたんだけど、いらない?」 「いる」 「よかった。今朝の月乃は寝坊して作る時間なくて、ついでに財布も忘れたんだよね?」 「本当に何で知ってるの……怖いから……」  嫌な顔をしてみせたのに、志貴はくすりと笑って首を傾げるだけ。  そして、キラキラしたオーラを引っさげて亜美に尋ねる。 「ダメ、かな?」 「どうぞどうぞ!いくらでも!」  いくらでもって、私は一人しかいないよ。  亜美が首がもげそうなほど勢いよく頷く。惚れっぽいので、うっかり志貴に恋でもされたら困る。 「……困る?何で?」 「聞きたいのはこっちだバカヤロー!」  ハッと我に返ると、志貴はいなくなっていた。が、亜美も、数多の好奇の視線もなくなりはしない。 「あんたと神田くんはどういう関係なのよ!」 「たぶん付き合ってる」 「……は?あんたには彼氏がいるでしょ」 「いや、昨日フられて」 「え」 「その直後に志貴に付き合ってほしいって言われて」 「はい?」 「何やかんやあって付き合うことになったらしい」 「らしい、じゃないわよ!何その急展開!?ご都合主義な少女漫画か!」  机をバンバン叩きながら亜美が怒鳴る。面倒くさいなぁ。  溜息をついて窓の外に目をやる。……面倒くさいけど、お弁当はちょっと楽しみだ。
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