第九話「二人の距離」

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 一筋の涙が頬を伝い、レイはその雫を愛しげに指先で拭った。  腕の中で泣きながら微笑む彼女はこの上なく美しくて、彼の胸を切なさと愛しさが締め付けた。 「愛してる、一花……。君は僕の全てだ」 「私も、愛してる……」  熱を帯びた瞳で見つめ合い、レイと一花は互いを強く抱き締め口づけた。  淡く白い月が、そんな二人を柔らかく照らす。  ビルの屋上で動かない二つのシルエットを、ジェラルドは向かいのホテルの部屋から見ていた。  その表情は静かだったが、瞳は凍てついた氷の刃のように冷たく鋭かった。 第十話に続く>>>
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