第九話「二人の距離」

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第九話「二人の距離」

    1  ホール入り口に立つ黒ずくめの男を、皆がいぶかしげに見つめる。  その時カインが「レイ様……」と呟き、突如、パーティー会場は騒然となった。 「何だと? あれが反逆者のレイ?」 「かつてのナンバー2……」 「裏切り者のレイ……」  招かれざる客の登場に、皆の表情に緊張が走る。  会場がざわめく中、一花は呆然と彼だけを見つめていた。  レイは昼間会ったときと同じコート姿で、ポケットに手を突っ込んで仁王立ちしていた。  だがその体を包む空気は黒い炎のようにゆらめき、怒りの色を帯びていた。  カインが素早くジェラルドと一花の前に立ち、彼の動きに合わせて他の部下達も臨戦態勢を取る。  圧倒的多数の敵を前にしても、しかしレイの目は一花しか見ていなかった。  そしてその目に滲んだ涙の煌めきに気づき、レイは表情を変えた。 「一花……!」  彼が数歩前に進むと、陣形はさらに彼を阻む形となった。  自分と彼女の間に壁を作る連中を、レイは忌々しげに睨みつけた。 「邪魔だ、どけ!」  彼の怒声が響いた途端、竜巻のような突風が起こり、楽譜台が倒れカーテンが大きくはためき、食器や花瓶などテーブル上の物が一斉に落下して乱雑に鳴った。     
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