70人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
第九話「二人の距離」
1
ホール入り口に立つ黒ずくめの男を、皆がいぶかしげに見つめる。
その時カインが「レイ様……」と呟き、突如、パーティー会場は騒然となった。
「何だと? あれが反逆者のレイ?」
「かつてのナンバー2……」
「裏切り者のレイ……」
招かれざる客の登場に、皆の表情に緊張が走る。
会場がざわめく中、一花は呆然と彼だけを見つめていた。
レイは昼間会ったときと同じコート姿で、ポケットに手を突っ込んで仁王立ちしていた。
だがその体を包む空気は黒い炎のようにゆらめき、怒りの色を帯びていた。
カインが素早くジェラルドと一花の前に立ち、彼の動きに合わせて他の部下達も臨戦態勢を取る。
圧倒的多数の敵を前にしても、しかしレイの目は一花しか見ていなかった。
そしてその目に滲んだ涙の煌めきに気づき、レイは表情を変えた。
「一花……!」
彼が数歩前に進むと、陣形はさらに彼を阻む形となった。
自分と彼女の間に壁を作る連中を、レイは忌々しげに睨みつけた。
「邪魔だ、どけ!」
彼の怒声が響いた途端、竜巻のような突風が起こり、楽譜台が倒れカーテンが大きくはためき、食器や花瓶などテーブル上の物が一斉に落下して乱雑に鳴った。
最初のコメントを投稿しよう!