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帰宅後、輝は考えた。上手く事を運ばないと足をすくわれる、そんな気がした。そして少し時間はかかるが北村以外の人たちと会話の中で誤解を解いていく他無いと結論付けた。しかしそんな思い空しく、週明けには社内メールで青峰遥の次のターゲットは青木輝だと写真付きで新たな火種がばら撒かれていた。メールの出所は不明。勿論、犯人は北村だ。写真は金曜日に二人で話していた様子を撮影したもので、渦中の人物が異性といただけで噂には拍車がかかってしまう。ざわつく周囲の視線を感じながら輝は北村の元へ足早に向かい、胸ぐらを掴んだ所で警備員に取り押さえられた。全て北村の計算通り。輝と遥は転属させられる事となったが、嫌気が指した輝は辞表を提出した。また、遥も輝の動向関係なく辞表を提出していた。そして輝がその事実を知ったのは最後の手続きで出社した時の事だった。自分の荷物をまとめていると同じように自分の荷物をまとめている遥が目に入った。輝は会社から出ると、遥を待った。
「よっ、おつかれ!」まるで何事も無かったかのように輝は遥に声をかけた。
「お疲れ様です。何かごめんなさい。私のせいで会社辞める事になってしまって」
「いや、それは違うよ。会社辞める切っ掛けが君だっただけさ。どの道ここに居続ける事はなかったんだって今は強く思っているし」
「これからどうなさるのですか?」
「考え中だよ。それよりこれでサヨナラっていうのも寂しいしさ、最後に食事でもどうかな?」
「そうですね・・・」
「今日も用事あり?」
「ええ、そうなんですけど、じゃあ、一旦、家に来ますか?」
「え?」
「どうぞ、青木さんなら信頼できそうだし」
「じゃあ、伺うわ」
遥の家はマンションの一室で、十一階の一番奥の角部屋だった。部屋の前からは二人が務めていた会社が入るビルを望む事が出来た。
「こっから、会社見えるんだな」
「そうなんですよね、今では複雑な光景になってしまいますが・・・まあ、どうぞ」遥はそう言って部屋の施錠を解いた。
遥の部屋は1LDKで色合いは黒で統一されていた。真っ黒の部屋に佇む真っ青の彼女は、まるで宇宙に浮かぶ地球の様だった。
「ちょっとここで待って下さいね」遥はそう言うと輝をリビングのソファーに座らせ、キッチンで手早くお茶を入れて輝の前に差し出した。そして着替える為にその場を後に寝室へ一度姿をくらませた。
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