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「そういうのは事前に皆に説明するべきだったのではないですか?」
「そうだな。これは個々に説明しないとだな」
「そうですね」
「じゃっ、頼んだよ」
「え?」
「では、俺は課長と飯だから」北村はそう言うとその場を足早に去った。
「チッ、クソ野郎が」輝は北村の擦り付けに腹を立て、その背中を睨みつけた。ふと気になって遥の方に目をやると、教育担当の女子社員が気怠そうに作業説明を遥にしていて、遥はその態度に気に留める様子はなくメモを取っていた。輝はこの日から一週間かけて部署内一人一人に事情を説明した。仕事を擦り付けた北村には腹を立てていたものの、この行いで遥のイメージが悪くないものになるかもしれないと思うとそれは苦ではなかった。
金曜日。皆足早に仕事を切り上げ、退勤する。そんな花金でも、輝は残業をしなければならない状況にあった。誰とでも分け隔てなく付き合えるタイプでもなかった為、遥の体質について部署内全員に説明するのには時間と労力を必要とした。そのツケは金曜に重くのしかかる。十八時までの勤務時間で現在二十時。仲間は既にその場にはいなかった。残業という出口のない迷宮で佇む輝は、一服入れようと給湯室へカップ麺のお湯を入れに行った。
「ううぅ・・・」給湯室へ入ると、青峰遥がうずくまっていた。
「え?ちょっと、大丈夫?」
「ごふっ」
輝は驚愕した。遥が吐き出したのは青い液体。
「え?」輝は目を丸くした。
驚き固まった輝を遥はキッと睨みつけると、口元の青い液体を手の甲で拭った。拭いきれなかった青い液体は遥の口の横に伸びた。
「驚きました?」
「ああ。君の登場から今までずっと驚きっぱなしだよ」
「はは。吐血したって言ったら信じます?」
「嘘だろ?」
「嘘・・・って言いたい所だけれど、誰もいないこの場所で態々青い液体吐き出すメリットってないですよね。どうしよう他に思い浮かばない。青い血でも青い液体だろうと、中々生物から出て来る色ではないですしね。しかも一応私は人間の形をしているし・・・」
「人間・・・ではないのか?」
「あっ、一応、人間、のつもりですよ。世間が認めるかは微妙でしょうけれど。こんな青い女」
「でっ、でも俺、青が一番好きなんだぜ」
「何それ?口説いているの?」
「あっ、いや、純粋に青が好きなんだ。ほら、俺の格好見て」
「ふふ。本当だ。でも、何故?」
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