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「そなた」
「はい?」
「なんか妄想してないか」
「何をですか?」
「たとえば俺が既婚者と不倫しそうとか、将来を決められた婚約者がいるのに横恋慕しているとか」
「(ぎくっ☆)いや、そんなことありません」
「真顔で嘘をつくな。どうなんだ。俺は道を外れた恋をしているように見えるか」
「むしろ」
「むしろ?」
「恋とかしなそうですよね」
「……ほう……」
「愛だ恋だと騒ぎそうになくて。淡々と利益の上がる結婚をして、淡々と親になって。情熱の全ては仕事で燃やすって感じですね」
「俺も人並みに愛だ恋だと騒ぐぞ」
「すごーい女性なんでしょうね、その方は」
「そうだな」
副社長は頬杖をつき、ニヤリと笑う。
「騒いでいる俺を見てみたいだろ」
「(あら、やっぱ、冗談だった)みてみたいかなあ」
「なんだ、そのテキトーな答えは」
「玉虫色の回答って大事じゃないですか」
「玉虫色の結論とは言うが、回答か?」
「世間話のほとんどに回答は要らないですよ」
「大人だな」
「就職して10年ですから」
「なるほど。ならば俺も見てみたいもんだ」
「何をですか」
「石井明日香が、愛だ恋だと騒ぐ姿だな」
「あははは。絶対ないない……あ、夏樹さんにはあります」
「そなた、本当は夏樹と付き合ってないって言ったろ。夏樹は見合いしたくないだけだ」
「こういうのも、どっちつかずの回答が良いんですよ、副社長」
明日香もニヤリと笑った。
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