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秘書の仕事は想像以上に大変だった。
まず、会社に行く時、明日香が運転しようとすると副社長は怪訝な顔をした。
「できるのか?」
「舗装されていない道路なら」
「…」
「任せてください、副社長!
こないだまで乗っていたジープは床に穴が開いていましたから!超パッカンパッカンです」
「……」
「……」
しばらくして、死ぬほど優しい声で蒼樹副社長は囁いた。
「…お嬢様。助手席にお乗りください」
恭しくドアまで開けられる。
「え~。私のドライビングテクニックを見たくないですか?」
「見たくない」
「私は見せたいですよ、副社長」
「いいから大人しく乗れ!」
こんな調子で朝から寝るまで修行だ。
「今日は正装でパーティーに行くのだが」
「はい(いってらっしゃーい)」
「そなた、ドレスは持っているか」
「ありません」
明日香は即答した。
そんなものと縁があるところには滅多に行かなかったし、何しろ明日香は突然本社に呼び戻されたのだ。荷物は霧島取締役の家に届いたまんま。
ドレスを着るなんて想定して本社に戻っていない。
「そこからか!仕方ない」
「私は秘書ですからスーツで良いのではないでしょうか」
「夏樹と結婚したら社長夫人だぞ。
今から馴らしておけ」
「えー」
「“えー”じゃない。それとも愛人志願か。不埒なことをすると日本じゃ墓穴ほらされるぞ」
明日香はドレスのお店に連れて行かれた。
(やめてー!貯金が目減りするーーーーっ)
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