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命食いの神
世界が滅ぶという、師走の寒い日。
大きい氷の粒子が地面に積もり、人々は忙しくそれに足跡をつける。
そうしてできた灰色の地面を、女は見つめていた。
あと一時間。
六十分すれば、世界は「人」の手によって跡形もなく滅ぶ。世界が滅びれば、「人」は全てーーー女だけを残してきえてしまう。女がかつて愛していた「人」も、家族もーー全て。
女は慈悲深き感情を描いた表情で、指をそっと組んだ。
女のそんな「奇行」を、人々は怪訝な表情で見守り、やがて通り過ぎてゆく。彼らは急いでいた。
「神よ」
女の真っ赤な唇が、わずかに震えた。
「どうかーー」
女が祈ったのは、なんでも叶える力を持つ強大な神だった。
指ひとつ、いや、瞳ひとつで全てを無に還らせる力。女はそれを信仰して止まなかった。彼女を避けて道を行く人々が知らない神だった。
女のか細い背中が、邪悪な神の手に包み込まれてしまいそうだった。怯えつつ信じている女の肩を、誰かが叩いた。
女は顔を上げ、気配のするほうを振り返ると、雪よりも白い不気味な顔色で問うた。
「神か…?」
硬い肩に手を置いた男は愛想のいい笑を浮かべ「そうだよ」と言った。女は瞳を輝かせた。
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