命食いの神

3/4
前へ
/4ページ
次へ
「決まっている。この世界が好きだからーーー。この世界がなくなって欲しくないからだ」 「ふむ。じゃあ、もしわたしがおまえの望む神だったら?」 「救ってもらう」  迷いなしに答えた女は再び指を組んで、強く祈りを告げた。 「神よ」 「なら」 「どうかこのーー」 「わたしがこの世界を救うと言ったら」 「世界を」 「どうするんだ? 泣いて喜ぶ? わたしに抱きつく? 世界をまるごと抱きしめる? 」 「救ってーーー」 「わたしがおまえの命を食う代わりに救うと言ったら?」 「うるさい!」  女は長い髪を振り乱し、拳を振り上げ叫んだ。  男は一瞬口をつぐむと、また語りだした。 「祈りを邪魔するつもりなどない。わたしはおまえに尋問をしている。おまえが指を組んで祈る相手がわたしなら。  嬉しいか?」 「ーーーーー」  女は目を見開いた。  まるで苦しみに震えるように、口を開けて僅かな息を吐き出した。 「わたしはなんでも叶える神」 「なに、を」 「おまえの命を食う代わり。この世界を救おうじゃないか」  尋問はおしまいだ。  神はしわがれ声を絞りだした。  神の瞳は天のように神々しく濁っていた。  神はどこかにいる「誰かさん」の為にいる。  人を食う代わりに世界を救済する、女の為だけに存在する神は、ここにいた。  それでも女は神を信じた。     
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加