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「決まっている。この世界が好きだからーーー。この世界がなくなって欲しくないからだ」
「ふむ。じゃあ、もしわたしがおまえの望む神だったら?」
「救ってもらう」
迷いなしに答えた女は再び指を組んで、強く祈りを告げた。
「神よ」
「なら」
「どうかこのーー」
「わたしがこの世界を救うと言ったら」
「世界を」
「どうするんだ? 泣いて喜ぶ? わたしに抱きつく? 世界をまるごと抱きしめる? 」
「救ってーーー」
「わたしがおまえの命を食う代わりに救うと言ったら?」
「うるさい!」
女は長い髪を振り乱し、拳を振り上げ叫んだ。
男は一瞬口をつぐむと、また語りだした。
「祈りを邪魔するつもりなどない。わたしはおまえに尋問をしている。おまえが指を組んで祈る相手がわたしなら。
嬉しいか?」
「ーーーーー」
女は目を見開いた。
まるで苦しみに震えるように、口を開けて僅かな息を吐き出した。
「わたしはなんでも叶える神」
「なに、を」
「おまえの命を食う代わり。この世界を救おうじゃないか」
尋問はおしまいだ。
神はしわがれ声を絞りだした。
神の瞳は天のように神々しく濁っていた。
神はどこかにいる「誰かさん」の為にいる。
人を食う代わりに世界を救済する、女の為だけに存在する神は、ここにいた。
それでも女は神を信じた。
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