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「浩太、それ、『緊急脱出』じゃない。『強制退去』だよ」
「そう思う?」
「思う。あんたが、本当に『緊急脱出』したと思ってるんだったら、頭のネジが、相当、ゆるんでるよ」
浩太が天井をあおいだ。「やっぱ、そうか・・・俺も、『強制退去』させられたかなって、思わなかったわけじゃないんだ。ただ、そう認めるのが怖くってさ」
「浩太、あんた、『先輩感謝デー』に来てるお年寄りたちのことを嫌ってたよね。でも、あの人たちは、定年まで、ここで勤め通したんだよ。浩太は、そんな調子じゃ、ここに定年までいられないよ。あたしと一緒に『先輩感謝デー』に来られないよ」
ちょっと言い過ぎたかなと思った。でも、あたしと浩太は、製造ロットが一緒、育ったクローン養育所も同じ。言ってみれば、幼馴染だ。親兄弟のないあたしたちにとって、幼馴染は家族も同然。その幼馴染と、一緒に、仲良く、定年を迎えられないなんて、こんな悲しいことはないよ。
がっくり肩を落とした浩太が、見る見る白い柴犬に変身しだした。イスの上にお座りした格好になった浩太が、テーブルに顎をのせ、情けない目であたしを見上げて、クゥンと鳴いた。
あたしは、浩太の顔を抱いて、頬ずりした。ガンバレ、浩太、あたしの大事な幼馴染み。
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