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6月20日 日曜日
何でもない日の、何でもない朝。
僕はいつもよりも少し緊張した面持ちで、彼女の後ろに立っていた。
待ち合わせたわけでもない。ただ、事前に決められていた時間から、準備に入っていた彼女の姿を、少しでも早く見たいと思い駆けつけた。
今日という日を、誰よりも待っていたのは僕だ。
「恵くん!どうしたの?」
鏡の前に座り、庭に咲く紫陽花を思わせる、薄紫のアイシャドウで瞼を飾られていた彼女が、胡桃のように丸く大きな瞳を開けた瞬間、嬉しそうな声を上げた。
顔全体をくしゃりと崩すような笑い方は、あの頃から変わらない。
「どうしたのって、早く着いたから会いに来ただけだよ」
「そうなの?でも、恵くんの控室は隣でしょう?」
くるりと身体を捻り振り返った彼女を見て、化粧をしていた女性が気を利かせたように、「少ししたら戻ります」と声を掛け部屋を出て行く。
一人で使うには十分過ぎる広さの部屋の壁には、彼女に良く似合いそうな純白のウェディングドレスが飾られている。
今この空間には、僕たちしか居ない。
鏡には、あの頃よりも少し大人になった二人の姿。
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