新たな村で

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紗江は黒鬼が何故急いで行かせようとしているか、わかっていた。 ユーフィリアは危険な魔法使いだ、とその目が語っていた。 あの魔法使いは、黒竜の力を欲しがっていた。 もし・・・黒竜がユーフィリアの誘いに乗ったりしたら・・・ 黒竜はユーフィリアを丸呑みにしてしまうに違いない。 圧倒的な力の差に、何故気がつかないのか。 それを、黒鬼は馬鹿だと言ったのだ。 紗江は他にも黒鬼が、仲間や村人に気遣いしているのを知っていた。 急がなければ!! 紗江は森の中にいる獣の気配に気付いて、呼びかけた。 「ここにきて、私を城まで連れていって」 ザザザ・・・ッ 大きな立派な角を振り上げながら、近づいてきたのは牡鹿だった。 (仙女、私を呼んだのか) 「魔女が、黒竜を呼ぼうとしている、私は城まで戻りたい」 (確かに変な臭いがしていた。あれは魔女だったのか) 鹿は角を下げて、紗江を乗せると、勢いよく駆け出した。 変な臭いと言ったのは、竜を呼ぶ魔法に使う、魔法薬の臭いだった。 こちらでドラゴンを召喚する時は、このようなものを使うのか・・・ 紗江にはそのような魔法はわからなかったが、微かに動物の血の臭いも混じっていた。 ダッダ ダダッ ダダッ・・・ (魔女が竜を呼ぶ前に、我々はあの森を離れる) 「わかったわ」 鹿は森も岩も飛ぶように駆け抜けた。 紗江は城が見えてきたところで、鹿から降りて言った。 「ありがとう、魔女は私が止めるから」 角を大きく振り、鹿は森へ戻っていった。 城に入ると、さっきの臭いが強く感じられた。 「ユーフィリア!!」
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