3 失踪

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――学校を出てから自転車で約1時間半。 山の中腹、深い緑の木々の中に、まるで隠れるようにひっそりと、その荘厳な姿を見せる城塞。 それはお伽話の中に出てくるメルヘンな城というよりは、どこか戦闘的な中世風の城だった。 いったい誰が何の目的でこんな山の中に城を移築させたのかはわからない。 荒れた外壁を見れば、管理者さえいないのでは…と思わされる。 夏が近いとはいえ、山はどこかひんやりと肌寒かった。廃墟と化した城の雰囲気がそう感じさせたのかもしれない。 朔耶と涼は自転車を置くと、城門のある坂道へと足を踏み入れた。 立ち入り禁止のロープはなぜか影も形もなく、かろうじて禁止の看板だけが、その腐った姿を地面に落としていた。 「朔耶、ほら」 いきなり涼が手を差し延べてくる。 「なんだよ」 朔耶は怪訝な顔をしながら警戒する。 「迷子になったら困るだろ?手を繋ごうぜ」 「はぁ!?」 朔耶は不気味なものでも見るように涼を見つめた。
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