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「ねー、キミ、キサラギチハルくんだよね?」
放課後、日も沈みかけて学生もほとんどいなくなった教室で1人項垂れている彼の席の前に座り、話しかける。
彼のことは前々から狙っていたのだ。いつもフラフラして、面白そうな人、きっとこの男の子は何かおかしい。
「ん……、ああ、そうだよ、そう。具合が悪いから少し放っておいてくれると嬉しい」
つっけんどんな態度、具合が悪いはずなのにしっかりと冷たい態度に少し腹が立った。
「まーた貧血?誰か待ってるの?」
「いや、強いていえば救急車がこの後来るかもしれない」
「それじゃ早く呼びなよ、いつものことなんでしょ?」
「いつものことだからだよ、出来れば我慢したいんだ。出来ればね」
つっけんどうで、ぶっきらぼう、何かを諦めているような声だった。
私はどうしてもそれが気に入らなく、腹が立った。
この男は何をこんなにもふてくされているんだろうと、せっかく、せっかく面白そうだったのに、つまらない。
だから少し、驚かしてやろうかと思った。
「貧血って、要は血が足りないってことでしょ?」
「ん、ああ、そう、そうだよ、いつも血が足りない」
「じゃあさ……、あたしの血でも飲む?」
筆箱からシャープペンシルを取り出し、人差し指にグッと差し込む。
軽い痛みと指先がに滲み、灰色の血が一滴、机に滴り落ちる。
「キミ、その色……」
「これで良ければ、好きなだけ……」
私がそう言うやいなや、彼は机を舐めた。
「ってあなた! 汚いとか! そういうのは無いわけ!」
「だって飲んでいいんだろ? なら、もらうよ。 ああ、一滴だって少しは楽になるもんだね」
少し顔色がよくなった彼の顔を訝しげに見つめる。
「変態?もしくはどうかしてる?」
「そりゃキミもおんなじだろう、灰色の血の人」
「そんな風に呼ばないで! 灰色なのは腹が立っていたから!」
ドロドロとした濃い灰色の血がもう一滴私の指から滴る。
それでも彼は何も気にせずその血液に舌を這わせた。
「じゃあ、話をしよう。僕の話とキミの話。出来ればもう少し、その血をもらってから」
やはり思った通りだった。この人はおかしい、私とおんなじだ。
興奮で赤い血が滲む、その人差し指を彼の口元に運ぶと、彼はそれにそっと口づける。
それが私達特異の出会いだった。
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