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眼を閉じて暗闇に沈もうかという頃合い、静かな水中に声が、響きわたりました。
「死んじゃだめだよ!!」
冷たく深い海に響きわたるほどの声でした。
そんな大きな声、悪魔は聞いたことがありませんでしたので、驚いて海から頭を引き上げ、上を見ました。
目の前には何時からそこに居たのか、傘を差した女の子が一人立っていました。
「死んじゃ駄目だよ!」
呆気にとられて黙っている悪魔に見かねたのか、女の子は先ほどの言葉を、もう一度力強く繰り返しました。
『それは、なぜ?』
悪魔はやっとのことそれだけを絞り出しました。
「ここに居たくても出て行かなきゃならない人がいるからだよ!」
女の子は悪魔の弱々しい質問に、力強く答えます。
『ここにいたくても出て行かなきゃならない人?』
悪魔はどきっとしました。魔界を追い出されたときのことを思い出したからです。
胸の辺りがツキンと痛んだ気がしたので、無意識の内に自分の胸をさすっていました。
「そうだよ。この世にずっといたい人でも、びょうきやじこで、神様があの世に行きなさいって命令して、出て行かなきゃいけない人達だよ。」
女の子は、パパもままもそうだったから、とか細くつけたしました。
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