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長い前髪の間から、雪乃の黒い瞳が俺を捉える。なんの表情もうかがえない黒い瞳。だが雪乃の片頬がかすかに持ち上がったかと思うと雪乃が口を開いた。
「うん。これが観たい。でも……」
「でも?」
「翔太くんが嫌なら、別のでも良いよ」
雪乃は敢えて、怖いなら、とは言わなかった。しかし、彼女の口元がうっすら綻ぶのを観てしまった俺は……今、笑っただろっ……引くに引けなくたっていうか、妙な意地が出てしまった。
「バーカ、お前が観たい映画を観るためについてきたんじゃねーか」
これは事実だ。しょーがない。
そして、やせ我慢マックスで、俺は雪乃と並んで苦手なホラー映画を鑑賞した。
たっぷり二時間。
身構えていた俺だが、暗がりの中スクリーンの明かりで照らされた雪乃の手の白さや、座ったおかげでスカートからはみ出た形の良い膝小僧が気になって、映画の内容は全然頭に入ってこなかった。
つい意識してしまったのは、多分映画館が暗かったせいだ、うん。
映画のあとに入ったデパートは、すごい人込みだった。雪乃がお母さんの誕生日のプレゼントを買いたいと言い出したからやってきたんだが、雪乃、人込みは苦手なんだよなぁ……。
そう思いながら後ろを歩く雪乃を振り返ると、やっぱり、少し青い顔をしながら俺のあとをついてくる。
「俺に、しっかりくっついてろよ」
と言うと、コクリとうなずく。
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