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俺は雪乃の手を開いてやって、ピンクの消しゴムをつかむと、山口の手のひらに渡した。女の子らしい可愛らしい消しゴムだった。消しゴムでもめるなんて、小学生かよ、とも思ったけど。
なら、はっきりそう言いなさいよね。と言いながら、彼女たちはチャイムの音とともに自分の席へ戻って行った。
「お前も、そうゆうことハッキリ言えよ」
雪乃が自信なさげに頷く。大丈夫か、こいつ。
何か変えてやらねーと。
で、思いついて、次の休み時間に俺は雪乃に
「お前、その前髪長すぎ。もお、カーテンか、すだれだろ。切って来いよ」
と言ってみた。そうだ、まずはこいつの暗いイメージを何とかしようって思ったんだ。
「翔太くんが切ってくれるなら」
ぼそりと雪乃が言う。
お、俺が切るのか?
ま、まぁ、俺が言い出したことだし。
昼休み、人気のない屋上で事務バサミで……仕方ない、それしかなかったんだから……俺は雪乃の前髪を切ることにした。
前髪を、人差し指と中指で持ち上げて切る。
ショキ、ショキ。
切るたびに髪の下に隠れている雪乃の顔が現れてくる。
固く閉じられたまぶたが、ぴくぴくと動いている。
緊張しすぎなんだよ。
そう思う俺の手もかすかに震えている。
その時、切り終わったのかと思ったのか、雪乃が目を開けた。
うるんだ瞳が俺の視線をとらえる。
うっ。
と思ったとたん、さくっと自分の指先までハサミで切ってしまった。
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