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「痛てぇ」
「だ、大丈夫?」
雪乃が俺の手をつかむ。
やめてくれ、痛いんだから。
雪乃がポケットからハンカチを取り出して、俺の切ってしまった指先に押し当てた。この間、デパートで買ったやつだ。
「汚れるだろ、それ、お前のお気に入りじゃないか」
「いいよ、汚れるくらい」
良くないだろ。だって、血だぞ。洗っても落ちないぞ。
俺の言葉に耳を傾けようとせず、雪乃が俺の指をハンカチで押さえ続ける。
至近距離で向かい合っていることに、俺はようやく気が付いた。眉毛のあたりで切りそろえた前髪が揺れている。俺の指先を真剣な目でみつめる、雪乃の瞳の中の虹彩。
俺の胸の鼓動がやけに早いのは、苦手な血を見たからだ。多分。
保健室でばんそうこうを貼ってもらって、教室に二人して帰った。
そして、クラスに帰ってから、俺は大変なことをしたかも……と思い始めていた。
教室に戻った途端、クラスの雰囲気がざわついたからだ。
女子たちはぎょっとして固まり、雪乃の事を誰なのか確認しようと…黒縁メガネを見てもピンとこなかったらしい…、雪乃が席に着くまで、その姿を目で追っていた。
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