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タクシーが到着したと連絡が入り恭介と一緒に部屋を出る。
エントランスに向かう道中、二人ともずっと無言だった。
エレベーターに乗り、今日は酷い一日だったと改めて実感していると、恭介が私の肩を抱き寄せて顔のすぐ横で囁いてきた。
「ま、これも何かの縁だし、これからよろしくな」
もうこりごりです、よろしくしたくないです、遠慮します。
とは言えず曖昧な態度で返事をせずにいたら、今度は額に軽くキスをされる。
ビックリして顔を上げれば、カラリとした笑顔が私を見下ろしていた。
私がおろおろ逃げ場を探し始めたちょうどいいタイミングでエレベーターが一階に到着した。
即座にエントランスに飛び出し、出口まで逃げるように走った。
出口を過ぎて、とにかく道路を目指し足を進める。
割と近い道沿いでタクシーのランプが闇夜に浮かんでいた。
無事にタクシーを見つけることができて、少しばかり安堵する。
私は振り返り、すぐ後ろまで来ていた恭介に軽く頭を下げた。
「ありがとうございました」
「おう、またな」
恭介は手を振って、それ以上は近づいてこなかった。
タクシーに乗り込み、行き先を告げてもう一度車内から恭介の居た方向を伺う。
もう戻っているだろうなと思いきや、まだ恭介はそこに立っていた。
最終的に、タクシーが見えなくなるまで恭介はずっと手を振り続けていた。
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