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十八年間生きてきて人の泣き顔を綺麗だと感じるのは初めてだった。
こんなつもりじゃなかった。
こんなつもりで真琴に近づいたんじゃない。
単なる娯楽、暇つぶし。
お前は所詮無力な人間なんだと蔑むのが目的だったはずだ。
なのに、それどころか俺は目の前で涙している彼女を愛おしいと、好きだ、と――。
らしくない己の感情を自覚した途端、とてつもない寂しさに襲われた。
俺と真琴の間に大きな隔たりを突きつけられ、途方に暮れる。
何故泣いたのか、どうしてそんなにも綺麗に涙できるのか分からない自分がいたんだ。
その事実に二人合わさることのない存在なのだと示唆されているような気がした。
そのときは感情の波にのまれて捕らえられなかったものが、今頃実体となって鮮明に浮かび上がる。
俺が俺でなくなっていく恐怖。
真琴への思慕と嫉心。
それらに縛り付けられ、がむしゃらにもがく現実。
ポッキーをグラスに入れなおし、俺の手からすり抜けたコップに口を付けて息を落ち着かせる真琴の目元を親指で拭う。
俺の方に向き直った真琴と目が合い、湿った感触はそのままに親指を彼女の唇へと流す。
指の腹で輪郭をなぞりその柔らかさを楽しんでから、そっと唇を重ね合わせた。
この想いが届くことがないとしても、今は別にいい。
せめて、彼女の傍で彼女を知りたいと望むくらいは、許してくれないだろうか。
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