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◆ ◆ ◆
まどろみの中で私はたゆたっていた。
ふわふわとした温かい何かに包まれて、気持ちいい。
誘い込まれるようにその温かさを求めて擦り寄る。
甘い、香りがする。
この香りを私は知っている……。
嫌な予感がして恐る恐る目を開いた。
眩しい光が走り去ったのち、視界に飛び込んできたのは明るい髪色と逞しい男の体躯。
「嘘っ……!」
こうして私は飛び起きた。
心臓がやかましく鳴り響く。
その度合いは視界をも揺らすほどに荒々しい。
ややあって、それは単なる寝ぼけ眼によるブレだと分かり、安堵と気疲れにため息をついた。
「……夢か」
朝っぱらから心臓に悪い。
昨晩はお陰様で肉体的にも精神的にもくたくたに疲れていて、普段より寝入りやすかった。
そのぶん寝起きは最悪ときたもんだ。
まぁ昨日の今日だから仕方ないんだけど。
動悸を抑えるために深呼吸をしていると、コンコンと扉がノックされた。
「なにー?」
「俺、入るぞ」
そう言って双子の兄である拓真が部屋に入ってきた。
きちんと制服を着て学生鞄とスポーツバックを提げているところを見ると、もう出発寸前のようだ。
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