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拓真にぬくもりを分け与えてもらっているうちに、どれだけ待ち望んでも訪れなかったまどろみが顔を見せ始めた。
とろとろと気持ち良い感覚に包まれていく。
「俺さ、嬉しいんだ。ちょっと前までは何かあってもあんま話してくれなかったじゃん。だから、こうやって話してくれて嬉しい」
耳元をくすぐる囁きには微かな弾みが含まれていて、本当に嬉しく感じているのが手に取るように分かる。
胸が、締め付けられるようだ。
膝の前で小さく折りたたんでいた腕を拓真の胴に回し首下に顔を埋めたら、布団に入るよう促された。
大人しくそれに従いベッドに身を沈めると、拓真がまた頭を撫でてくれる。
温かくて、嬉しくて、この安らぎを終わらせたくなくて。
私の頭を上下する手をそっとつかみ、両手で覆う。
「眠るまで、握っててもいい?」
「いーよ」
穏やかな夜の帳の中、見えなくても拓真が微笑んだのが分かった。
そっか、分かるんだ。
見えなくても、こうしていれば拓真の気持ちが伝わってくる。
なんだか、幸せだな……。
そう、ぬくもりにひたっていると思い出したように拓真が呟いた。
「あ、でも言いたくないことは無理に言わなくてもいいからな」
どうしてこの人は、こんなにも温かいんだろう。
拓真のくれる優しさは私の胸にほのかな甘みを芽吹かせた。
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