第12話:静かな、悲鳴

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今だってどうせ、俺にまで必要以上にしんどい思いをさせるわけにはいかないだとか難しく考えてるんだろ。 『んー確かに普通には見えないかもしれないけど、生活に支障は無いからそこまで心配はしてないんだ。前より笑うようになってたし……むしろその方が幸せそうで』 「そうじゃない。お前のこと聞いてんだけど」 『俺? 俺はなんにも』 ここまできて平静を繕おうとする強情さにはいい加減イライラしてきた。 いくら電話越しで姿が見えないからって、俺が聞く耳持ってることぐらい分かれよ。 俺は苛立ちを包み隠さず口に出した。 「ホントーは?」 『ホントーに。ってか勝手にパクんじゃねぇよバーカ』 「パクリじゃねーし、お前の口癖がうつっただけだしバーカ」 『うつんなよバーカ』 「中一だっけ? その頃から一ヶ月に二回はその台詞聞かされつづけてうつらない方が不自然だってのバーカ」 実際はそこまで頻繁ではなかったが、そこはさして重要じゃなかった。 それからしばらくは脱線しつつの罵り合いが続き、拓真が根負けして収束を迎える。 『んで? 用はそれだけか?』 「んなわけねーだろバーカ」 『もういいだろ、それは……』 先に始めたのはそっちだろ、と声に出さず笑ってから俺は本題に入ることにした。 「病院の結果、聞きに言ったか?」 『……いや、まだだ』 「もうそろそろ結果出るだろ。そこんとこはちゃんとしておいたほうがいい。そこでだ。お前に付き添いは無理だろうから俺が引き受けようかって話」 中島と縁が切れた以上新橋妹が付き添いを求めた場合、それに応えられるのは残った男二人だけ。 どちらかを選べと問えば十中八九拓真をとるだろうが、その拓真があの独特な空間に耐えられるとは到底考えられない。 それは妹も何となくは思うはずだ。 対して俺は事柄が違えど昔縁があったから、拓真よりかは慣れがある。 それに他人の方がかえって気が楽ということも言える。
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