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最終的には妹次第だとしても、俺という選択肢があることを示さなければこの兄妹は考えつきもしないだろうと思った。
予想通り、思ってもみなかったことを告げられて拓真は言葉を詰まらせた。
『無理じゃ、ない。真琴が必要なら俺は行く』
言葉尻に震えが入ったのは固い決意かそれとも狼狽か。
自分では気づいていない様子だ。
「それはもちろん。お前の妹が決めることだしな。ただ、言っとけよ。なんなら俺もいるからって」
『分かったよ。ありがとう』
最後の穏やかな礼には激しく心を揺さぶられた。
ありがとう、じゃないだろ。
なんだよその言い方。
俺を頼る気なんかさらさら無いくせに。
そういうところはなんとも憎たらしい。
頼れよ、ちくしょう。
俺を薄情な男にするな、恩返しくらいさせろバカ。
今にも叫びだしてしまいそうだ。
「じゃ、そういうことで。遅くなって悪かった。また明日な」
『あぁ、世話になる。また明日』
少し待って、ツーツーと回線が切れたのを確認してから俺は携帯電話を閉じた。
ふーと息を吐いて敷いた布団の上に倒れこむ。
こんなんじゃ中島と同じだ。
相手にも考えがあることを頭におかず自分の気持ちばっかり押し付けちゃ、そんなの良くてありがた迷惑にしかならない。
なんといっても、俺も潰れるわけにはいかないんだ。
ここで潰れたら親友の名が廃る。
俺は違う。
それなりに年季が入っているし、あの二人のことなら誰よりも近くで見てきた。
両親以上に分かっているつもりですらいる。
大丈夫、事は俺が思っていたより良い方に進んでいるじゃないか。
“幸せそう”だなんて台詞が出たんだ。
それに“笑うようになってた”とも……。
違和感が走る。
もう一度拓真の言葉を反芻する。
数々の発言を分別し、やがて一つの言い回しが炙り出された。
“なってた”?
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