第12話:静かな、悲鳴

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苦しくてたまらなくて、助けてほしくて、そんなときに思い浮かぶのはやっぱり拓真で。 そこでようやく私は我に返った。 今まで拓真が私を傷つけたことがあっただろうか。 拓真が私を思いやらないことなどあっただろうか。 私が一番よく分かってることじゃない……。 なんて馬鹿な考えをしてしまったんだろう。 自分への羞恥と嫌悪にまみれそうになって思いとどまる。 ここでグジグジ悩む暇があるなら、いち早く拓真に謝らなきゃ。 拓真は何も悪くないのに沢山傷つけてしまった。 それに確かめなきゃ。 頭で理解できていても体が拒んでしまうのなら、もう一度自分の体に分からせるまで。 私が決心して拓真の部屋を訪れるとそこは無人だった。 出鼻を挫かれさっそく心折れそうになったけれど、このぬくもりの溢れた空間が私を励ました。 机の上に転がる青のシャープペンシル、教科書を取り出して開かれたまま床に置かれている鞄、その隙間からチラリと見える赤いお守り、私の体を優しく受け止めてくれるベッド。 それだけじゃない、私たちが生まれてから沢山の思い出が積もりに積もっている。 温かい場所。 今までも、きっとこれからもそれは同じ。 そう、何も変わらないんだ。 楽しかった思い出が消えるわけじゃない、優しい拓真の姿が見せかけだったわけじゃない。 「どうした?」 やわらかな響き。 拓真は微笑んでいた。 でも、部屋に入ってこようとはしない。 「来て」 私はポンとベッドを叩いた。 そうしてやっと拓真が部屋に入る。 足音を立てず、ためらいがちに歩いて私の隣に腰掛けた。 すぐにでも下りられるようにするためか、足は床に着けたままだ。 私が全身をベッドの中におさめるよう求めて、拓真は足を上げ私の方に体を向けて正座になった。 私は抱えていた脚をといてぺたんと横に座り、拓真と向かい合う。 「じっとしてて。目も瞑って」 「うん、分かった」 静かに拓真の目蓋が下ろされる。
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