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苦しくてたまらなくて、助けてほしくて、そんなときに思い浮かぶのはやっぱり拓真で。
そこでようやく私は我に返った。
今まで拓真が私を傷つけたことがあっただろうか。
拓真が私を思いやらないことなどあっただろうか。
私が一番よく分かってることじゃない……。
なんて馬鹿な考えをしてしまったんだろう。
自分への羞恥と嫌悪にまみれそうになって思いとどまる。
ここでグジグジ悩む暇があるなら、いち早く拓真に謝らなきゃ。
拓真は何も悪くないのに沢山傷つけてしまった。
それに確かめなきゃ。
頭で理解できていても体が拒んでしまうのなら、もう一度自分の体に分からせるまで。
私が決心して拓真の部屋を訪れるとそこは無人だった。
出鼻を挫かれさっそく心折れそうになったけれど、このぬくもりの溢れた空間が私を励ました。
机の上に転がる青のシャープペンシル、教科書を取り出して開かれたまま床に置かれている鞄、その隙間からチラリと見える赤いお守り、私の体を優しく受け止めてくれるベッド。
それだけじゃない、私たちが生まれてから沢山の思い出が積もりに積もっている。
温かい場所。
今までも、きっとこれからもそれは同じ。
そう、何も変わらないんだ。
楽しかった思い出が消えるわけじゃない、優しい拓真の姿が見せかけだったわけじゃない。
「どうした?」
やわらかな響き。
拓真は微笑んでいた。
でも、部屋に入ってこようとはしない。
「来て」
私はポンとベッドを叩いた。
そうしてやっと拓真が部屋に入る。
足音を立てず、ためらいがちに歩いて私の隣に腰掛けた。
すぐにでも下りられるようにするためか、足は床に着けたままだ。
私が全身をベッドの中におさめるよう求めて、拓真は足を上げ私の方に体を向けて正座になった。
私は抱えていた脚をといてぺたんと横に座り、拓真と向かい合う。
「じっとしてて。目も瞑って」
「うん、分かった」
静かに拓真の目蓋が下ろされる。
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