第12話:静かな、悲鳴

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「触ってもいい?」 「ん」 “じっとして”と言われた通り拓真は身じろぎ一つせず喉で答えた。 それにゆるやかな安らぎを覚え、拓真へそっと両手を伸ばす。 まずは丸くかたどられた頭に手を置き、そこから耳、首、肩、腕と輪郭をなぞるように触れていく。 腿を経て膝先までたどったあと再度腕を上げて、次は内側を丹念に撫でた。 眉に目蓋、やわらかい頬にすっと伸びた鼻先、その下で淡く色づいた唇。 それから顎の引き締まったラインを伝って喉仏のささやかな盛り上がりを指先に感じた。 地肌はここまで。 鎖骨の窪みからは寝巻きの生地を通して身体に触れた。 胸板から腹部にかけて微かな起伏があることは異様に印象的だった。 いくら男だからって真っ平らでできているはずがないのに。 最後に掌をつかみ、握り、さすって、私は手を離した。 「もういいよ」 許しを得て、ゆっくりと拓真の目蓋が開かれる。 終わったのだから姿勢をくずしてもいいのに、拓真は正座をしたまま次の言葉を待っていた。 濃褐色の瞳にしげしげと視線を注がれて思わず顔を伏せる。 「ねぇ、拓真」 「どうした?」 「今度は拓真が触って」 返事はなかった。 その代わり、敷き布団のしわだけだった視界に骨ばった手が加わった。 恐る恐るといった感じでそれは私の手に触れる。 壊れ物を扱うかのように持ち上げ、優しくふわりと覆ってきた。 「もっと、ちゃんと」 咎める風に言うと、拓真は戸惑いを見せながら顔を上げた。 その隙に私はグッと前に身を寄せ拓真のふところに入り込む。 二人の間はほんの少し胴を倒しただけでピタリと触れ合ってしまえる距離まで縮まった。 「じゃあ、触るぞ」 その言葉を合図に私は目を閉ざす。 初めにそっと頭を撫でられ、次に耳、首、肩とさっきの私と同じ順で手は流れていく。 でも、触り方は全く違った。 手で触れるというより手を置くと言ったほうが正しいかもしれない。 それも極力重みを感じさせない、下手したら触れられたのかも分からなくなるような、そんな触り方。 拓真の手は私の膝先に到着したところで離れた。 「これでいい?」 「うん、ありがとう」 広い肩に頭を預け、拓真の肘周りの生地をぎゅっとつかむ。
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