第12話:静かな、悲鳴

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「ごめんなさい」 「……何もお前が謝ることなんてないさ」 私の背中にそっと無骨な掌が置かれた。 寝巻き越しにぬくもりがつたい、そのぬくもりは次第に熱へと姿を変える。 「拓真」 「ん?」 「私のこと、どう思う?」 ぼうと熱に浮かされるままに吐露する。 そして中々反応が返ってこないのに焦れて、全身を拓真にもたれかけた。 部分的なものだった熱は私の全てを包み込むまでに広がり、身体の芯まで染めていく。 拓真は体勢を持ち直し、頭の上でぽつりと言った。 「シャンプーの良い匂いがする」 「……なにそれ」 「なにって、思ったこと」 そうきたか。 くすぐったさに頬を緩ませながら、胸の奥でどこか落胆する。 「拓真も石鹸の香りがするよ」 そう顔をうずめるよう装って、私は拓真の首に口づけた。 私がしたことに気づきもせず拓真は無邪気に笑った。 「そりゃ、今入ったばっかだから」 「うん、そうだね」 そっと体を離し、笑顔を返す。 最後に頭を一撫でされるのを待ち、それが終わってからベッドを下りた。 「おやすみ」 「おう、おやすみ」 やわらかな声に後ろ髪をひかれながら部屋をあとにする。 自室に戻ってすぐに勢いよくベッドに突っ伏し、枕を抱きしめた。 心臓が痛い。 この痛みを潰して無かったことにしてしまいたい。 そんな気持ちとは裏腹に胸はキシキシと痛みつづけ、熱をも灯す。 勇気を出して確かめて良かった。 馬鹿げた妄想を一掃することができた、拓真は優しい拓真のままだと確信することができた。 私を傷つけないようあんなに慎重になりながら、それでも私の願いを受け入れてくれる。 それで十分だった、十分だと思いたかった。 あの一時で痛感したのはそれだけじゃない。 あんなにも大事に触れられて、まるで宝物にでもなれたかのような錯覚に陥りもして、感じたのは胸が裂けそうなほどの苦しみ。 拓真は本当に私のことを大切にしてくれている。 純粋に想ってくれている。 そんな拓真の声や仕草、一つ一つに色を見出して瞳を熱く潤ませる私がいた。
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