第12話:静かな、悲鳴

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この夢を境に、今度は拓真と目を合わせることができなくなった。 一番マシなときで唇、酷いときは足先。 それが拓真の体で私が視線を落ち着かせることができる部位。 まさか拓真相手にこんなすげない態度をとる日がくるなんて。 同じ場に居合わせただけで夢のことを思い出して頬を熱くする自分に吐き気がする。 今となっては、双子という繋がりに甘えて拓真が私を理解してくれているという自信を持つこともままならず、不安に煽られる日々が続いた。 このままでは私が拓真を嫌うようになったと、拓真に勘違いされてしまうのではと気もそぞろだった。 そんなの嫌だ。 発作的に想いが溢れてはこれまでの素っ気無さなど最初から無かったかのように寄り添い、時間に頭を醒まされては思い出したように離れることを繰り返す。 胸に巣くう感情を持て余すあまり、私は脳に操られる方法を忘れた。 頭ではなく心が私という人間を操縦していた。 ただでさえ、私の理性はとうに恭介の手で剥ぎ取られていたというのに。 これで奇行を起こすなという方が無理、そう思うことは脆弱なのだろうか。 こうして奈落の底に突き落とされたかのような毎日を過ごしていく間、夢を見ることを恐れて自らの意思で眠りにつくことができなくなっていた。 夜な夜な体内でくすぶる熱から気を逸らすために自室とリビングを行き来した。 熱がこもっては冷たい飲み物を口にして、疲労が眠りを誘うのを待つのだ。 拓真に手を委ねて安らかに眠りにつけていたのが遠い昔のよう。 そう幸せが詰まった時間に想いを馳せながら、私は今日も今日とて往復運動に勤しんでいた。
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