第12話:静かな、悲鳴

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「真琴……」 リビングに下りること三回目。 深夜真っ只中な状況に油断して、キッチンに小さな明かりが点されていたことを察知することができなかった。 虚を突かれ、反射的に声のした方向へ目をやってしまう。 私はドアノブを片手に石のごとく動けなくなった。 いつしかの拓真と同じように。 そういえばあの日以来だ、拓真と目を合わせるのは。 拓真は手に持っていた青色のマグカップをあおぎ、それとなくシンクに置いた。 辺りに沈黙が流れ、それはすぐに打ち破られた。 「ホットミルク、飲む?」 やわらかな声につられて無意識のうちに頷いていた。 「じゃあ、今から作るから。ソファにでも座って待ってて」 優しく拓真が微笑む。 それが何故だかとても嬉しそうに見えて、胸が締め付けられた。 その痛みを誤魔化すように私は扉を閉めてソファに腰を下ろした。 あのまま立ち竦んでいたら泣き出してしまいそうだったから。 キッチンのカウンター越しに見える拓真の姿は、これまでと何も変わらず私の瞳に映った。 物事に真面目に取り組んで、でもちょっぴり雑っぽくて、それでいて温かさに溢れている。 好きだなぁと思う。 「はい、お待たせ。熱いから気をつけろよ」 キッチンから戻ってきた拓真がマグカップを私に差し出してくれた。 紅色をした拓真とお揃いのマグカップ。 その中で出来たてのホットミルクが湯気を立ち上らせている。 「……ありがとう」 お礼をして、取っ手を持つ拓真の手ごとマグカップを両手で包み、一口飲む。 ほわりと優しい味が広がり、その中にほのかな甘さを見つけてふいに涙腺が緩んだ。 「ハチミツ入れたの?」 「あぁ、少しだけな。嫌だった?」 「ううん、全然。嬉しい」
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