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「眠れないのか」
囁きは何に混ざることなく、私の中に入ってくる。
「うん」
「そっか、俺も」
「拓真も?」
「うん」
「そっか」
じゃあ、同じだ。
とりとめもなく思い、胸が疼いた。
握り合わせた両手で拳を作り、中心に押し付ける。
所詮は気休め、その程度で治まるどころか誤魔化せもしない。
「拓真」
名を紡ぐだけで息苦しさに襲われた。
私はどうかしている。
「どうした」
「痛いの」
「……どこが? 痛み止め持ってくる?」
それとも湿布か、とうろたえる拓真が可笑しくて目頭が熱くなった。
「いいの」
ソファの上に膝をついてにじり寄り、おおよその位置に手を向けて硬い輪郭を捉え、肩を押す。
ぐらりと傾く感覚。
私の下で拓真の頭がソファに埋まる小さな音がした。
倒れた身体に自分のものをゆったりと合わせ、広い胸に耳を添えると確かな心音が聞こえてくる。
それはドキドキと忙しなかった。
私と同じ。
「拓真」
「ん?」
「好きだよ」
顔を、胸を、全身を、熱が走る。
私は無意識に拓真の左手を握っていた。
たぶん、ぬくもりで熱を消してしまおうとしたんだ。
けれど、熱は消えなかった。
握った手は私のものとさして変わらぬ熱を灯していた。
二人の熱は合わさって高まって、溢れるように私を包む。
なんだか、溶けてしまいそう。
焦げて灰になるのではなく、とろとろに溶けていくような心地。
このまま溶けて拓真の中に染み込んでいけたらいいのに。
そしたら、予期せぬ接触に身を強張らせる必要が無くなる。
心置きなく拓真と一緒にいられる。
私は握っていた手をほどき、改めて指を絡めてぎゅっと力を込めた。
夜の闇が粛々と私たちを取り囲む。
夜目は未だに利かず、まともに機能しているのは触覚のみ。
私の下で拓真はビクリとも動かなかった。
この静けさに響く音は全部私のもの。
耳をすませても意味がない。
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