第12話:静かな、悲鳴

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「眠れないのか」 囁きは何に混ざることなく、私の中に入ってくる。 「うん」 「そっか、俺も」 「拓真も?」 「うん」 「そっか」 じゃあ、同じだ。 とりとめもなく思い、胸が疼いた。 握り合わせた両手で拳を作り、中心に押し付ける。 所詮は気休め、その程度で治まるどころか誤魔化せもしない。 「拓真」 名を紡ぐだけで息苦しさに襲われた。 私はどうかしている。 「どうした」 「痛いの」 「……どこが? 痛み止め持ってくる?」 それとも湿布か、とうろたえる拓真が可笑しくて目頭が熱くなった。 「いいの」 ソファの上に膝をついてにじり寄り、おおよその位置に手を向けて硬い輪郭を捉え、肩を押す。 ぐらりと傾く感覚。 私の下で拓真の頭がソファに埋まる小さな音がした。 倒れた身体に自分のものをゆったりと合わせ、広い胸に耳を添えると確かな心音が聞こえてくる。 それはドキドキと忙しなかった。 私と同じ。 「拓真」 「ん?」 「好きだよ」 顔を、胸を、全身を、熱が走る。 私は無意識に拓真の左手を握っていた。 たぶん、ぬくもりで熱を消してしまおうとしたんだ。 けれど、熱は消えなかった。 握った手は私のものとさして変わらぬ熱を灯していた。 二人の熱は合わさって高まって、溢れるように私を包む。 なんだか、溶けてしまいそう。 焦げて灰になるのではなく、とろとろに溶けていくような心地。 このまま溶けて拓真の中に染み込んでいけたらいいのに。 そしたら、予期せぬ接触に身を強張らせる必要が無くなる。 心置きなく拓真と一緒にいられる。 私は握っていた手をほどき、改めて指を絡めてぎゅっと力を込めた。 夜の闇が粛々と私たちを取り囲む。 夜目は未だに利かず、まともに機能しているのは触覚のみ。 私の下で拓真はビクリとも動かなかった。 この静けさに響く音は全部私のもの。 耳をすませても意味がない。
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