第12話:静かな、悲鳴

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左手を絡めたまま軽く上体を起こし、拓真の上を這って距離を詰める。 鼻先に感じる拓真の息はどことなく熱い。 逞しい肩から外した右手を顎に添えた。 親指を少し伸ばすと、指先にふっくらとやわい感触が広がる。 「好きなの」 あなたが好き。 ずっと一緒にいたい。 離れたくない。 想いに駆り立てられ、そっと唇を寄せた。 重なる直前、空気が動く。 やわらかい頬の上に私の唇は落ちた。 しめった感触に唇が微かに濡れる。 「……ごめん、真琴」 振り絞るように零れた声。 挟まれた呼吸は完全に震えが混じっていた。 そこでようやく私は気づく。 拓真は泣いていた。 「ごめん、俺」 拓真が泣いている。 私を包んでいた熱の膜が雪どけのように消えていく。 「俺……先輩には、なれない」 「ちがっ」 違うって言おうとした。 言えなかった。 拓真は私にとって唯一無二の人。 揺ぎ無い存在。 恭介の代わりなんかじゃない。 いくらなんでも、その程度のことを拓真が分からないわけがない。 たどり着いた答えに冷や水を浴びせられ、たまらず寒気がした。 痛みに締め付けられ熱にのぼせて、私は今、何をしようとした? 拓真に、双子の片割れに、血の繋がった実の兄に……。 「あ……う、あぁっ……」 弾かれたように身を引く。 触れ合うことすらおこがましくてソファの隅まで後ずさった。 私は、拓真になんてことを言わせてしまったんだろう。 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ……」 後悔の念に羽交い絞めにされた私を、拓真が抱き締めた。 「謝るなっ……」 深く、しっかりと回された拓真の腕は、かといって強く締め付けることはしない。 微塵たりとも変わらぬ優しさに胸が詰まる。 拓真は変わらない。 心優しい双子の兄のまま。 そう、変われない。 どれだけ私が願い求めても双子の兄としてしかいられない。 私も、双子の妹でしかない。 幾度となく私を救ってきた繋がりを生まれて初めて、忌々しいと思った。 罰当たりと罵られても、なんの抗弁もできない。
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