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「見つけたぞ、この野郎!」
いつの間にかガラの悪い男が数人、階段の上からこっちに近づいてきていた。
「やべ」
そう彼は呟くと即座に私の手を取り、男たちに向かって駆け出した。
虚をつかれた連中のうち一人目掛けて突進し、よろけた拍子に腹に一発蹴りを入れ、そのまま彼は私を連れて改札口の方向へ走った。
「えぇっ」
瞬く間に起きた惨事に私は呆然とするばかり。
自分が置かれている現状を理解する前に次から次へと事態が急変するものだから、全く頭が追いつかない。
混乱しているうちに横一列に並んだ改札機が視界に飛び込んできた。
まばらに人が通過し、ピッとICカードがかざされる音が耳に入る。
咄嗟に定期券を出さなきゃと思い立ち、片手で鞄の小ポケットを開けようと努力するもなかなか指が思うように動いてくれない。
このままじゃ駅の入場料未払い扱いで捕まっちゃう……!
突然の出来事の連続に心臓がバクバクと脈打つ。
ハラハラしながらされるがままに手を引かれ、段々と改札口が近づいてくる。
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