第14話:涙は破け、夢剥がれゆく

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いくつかの発言から、樋口は妹を自分の所持物だと考えているきらいがある。 独占欲が強いようだ。 そういう人間が自分の恋人に浮気されたとなれば、より一層束縛が酷くなるのは想像に難くない。 まぁ、それでDVに走るなんて以ての外だ。 人として最低な行いをしたことには変わりない。 だけど。 もし、樋口が兄妹で一緒いるところを目撃しなかったら? 拓真という刺激物を目の当たりにしなかったら? 「拓真」 声を出す余裕すらないのか、拓真は目だけで俺に応えた。 「お前は悪くない。お前は全く、これっぽっちも悪いことなんかしてない。妹を助けようって思ったんだろ、妹に元気になってほしかったんだろ。お前は当たり前のことをしただけなんだ。胸張ってもいいことなんだよ」 だから。 だから、そんな目をするな。 罪悪と後悔に沈んだ瞳が、空虚に俺を見返す。 実際に目で見えなくても、拓真が自分を責めているのが、己の存在自体を忌々しいものだと陥れているのが、分かった。 我にも無く拓真の両肩をつかみ、揺さぶる。 「お前は人として立派な部類に入る人間だ。自信持っていい、俺が保証する。自分に誇りを持て、そうしていい。それが許される人間なんだよ、お前は」 なのに、なのに、なのに。 どうしてこうも、幸せになれないんだ。
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