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◆ ◆ ◆
「結局それに決めたのか」
「うん。ちょっと文字が小さくて見にくいけど、解説が一番充実してるから」
私は平積みされていた書籍のうち黄色い本を手に取った。
表紙には現代社会と赤く大きな文字で表記されている。
私たちは今、駅ビルの中にある小さな本屋さんに来ている。
ここは、規模は小さいものの学校の近くにあるから参考書の類が充実していて、この辺の学校に通う学生から重宝されている。
私は最終的に可もなく不可もないテスト結果を受けて、少しでも成績を上げようと向上心を奮い立たせ、恭介との放課後デートにこの場所を選んだ。
何故、恭介が到底興味も関心も持ちそうにない本屋に決まったのかというと、なんとあの恭介が“行きたい場所はあるか?”と私に尋ねてきたから。
今まで恭介の気まぐれでいつの間にか決まっていたのに。
それに加え、何の反論もなく私の要望を承諾したのには度肝を抜いた。
先日、髪色をいきなり変えてきたことといい、最近はビックリなことだらけだ。
本屋に入ってからも恭介は私の参考書選びを妨害することはなかった。
時折私の様子を見にきながら、ふらふら店の中を見て回るだけ。
興味なさそうな様子には変わりなかったけれど、早く選ぶよう急かすこともなかった。
少し待たせてしまったし、早く会計済ませてしまおう。
多少辛抱強くなったようだけど、こういう場所を退屈に感じる性分に変わりないようだ。
私は恭介を気遣って、気持ち急ぎ足でレジへと歩いた。
だけどその小さな思いやりはほんの数秒で萎んでいった。
あ、と思わず立ち止まり、目についた単行本目掛けて駆け寄る。
レジの真ん前に新刊漫画のコーナーがあり、その中に見慣れたタイトルの漫画があった。
「新しいの出たんだ……」
小学生の頃から買い集めている少年漫画。
狭い平台の上に立て二列に渡って平積みされていた。
一番上から一冊手に取り巻数を見て、自宅に置いてある単行本の続きであることを確認し、いよいよどうすべきか迷いが生じる。
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