第14話:涙は破け、夢剥がれゆく

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さすがに他所の家に居候している間は、趣味の買い物しないよね……。 あの部屋そう広くもなかったし、邪魔になるものを増やすほど無神経な性格でもない。 帰ってきて、新しい巻が本棚に入ってたら喜んでくれるかな。 脳裏に優しい笑顔が浮かぶ。 そして、ふふ、と自然な笑みが口から溢れて我に返った。 途端に涙腺が緩む。 「それも買うの?」 恭介が興味津々といった様子で隣に立ち、私を見下ろしていた。 「ううん。今日はやめとく」 どこからともなく湧き出る後ろめたさに、私は首をぶんぶん振って単行本を平台に戻した。 恭介の勘は鋭い。 「ふーん、じゃあ行くか」 「えっ」 スッと今しがた戻したはずの一冊が視界を横切る。 恭介は好奇心を隠さず、単行本を表裏とひっくり返してまじまじと見つめ、それから私が手で持っていた参考書も勝手に抜き取り一人歩き出した。 「これ、お願いします」 「お預かりします」 突然のことに慌てて追いかけると、お会計が始まるところで余計慌てるはめに。 あわあわしながら鞄の中を探るも、こういう時に限って財布が見つからない。 そうしている間にも着々と会計は済まされていき、やっと見つけたと思ったらすでに参考書たちは縦長の黒いビニール袋の中に入っていた。 「ほら」 次の会計の邪魔にならないよういったん店を出てから、恭介は買いたてほやほやの二冊を袋ごと私に渡した。 「私の買い物なのに……」 「いいから。それに参考書だけでも結構な値段してたけど、持ち合わせあったの?」 「それはもちろん、あるに決まって……」 財布を開いてみれば、そこにお札は一枚も入っておらず、冷や汗を掻きながら小銭ポケットのスナップボタンをパチリと外して枚数を数える。 あれ、もっとお金入ってると思ってたのにな……。 「参考書いくらだっけ」 私の小さな声に恭介はおかしそうに笑って、レシートを見せてくれた。 そこに書かれてあった数字を見て一瞬自信を無くしかけたけど、改めて数えなおしてみると漫画も含めた合計額にギリギリ足りている。
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