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周囲の目を気にしながら、右手を口元に添える。
「キスとか、そういうの!」
「ふーん、分かった」
これで満足してくれたかと思いきや、言ったそばから恭介は私の鼻先にチュッと啄むようなキスを落とした。
「ちょっ……」
反射的に制服の袖でゴシゴシ鼻を拭く。
「うわ、真琴ひっでー!」
「ねぇ、私真剣に話してるの。こうやってくだらいないことして誤魔化さないでって再三言ってるでしょ」
「わーわーえげつねー。全然くだらなくなんかないのに」
「これをくだらないと言わずになんて言うの」
「真剣だよ、俺。真剣に真琴が好きだから、キスしたいって思うし、こうやって……」
恭介は私の左手を離し、両腕を私の肩に回した。
グッと二人の距離が縮まる。
こつんと私の頭の左側に恭介のそれが当たった。
「抱きしめたいって思う」
耳元で低く掠れた声が響いた。
鼓膜から足の指先まで、瞬く間に熱が走る。
「うん、ありがとう。分かったから、そういうのほんと止めて……」
「まだ言うか。いいじゃん、“お母さんたちの目の前”ではないんだし」
いい加減羞恥に耐えられないものがあったので、私は恭介の胸板を強く押して近すぎる距離を整えた。
「だから、その……お母さんたちの目の前に着くまで私の心臓が持ちそうにないの。今も凄くいっぱいいっぱいなんだから。ドキドキして、痛いくらい」
ドキドキドキドキ、ただ甘いだけの鼓動だったらどんなに良かっただろう。
私の場合は畏怖の動悸が混じるから、性質が悪い。
さすがの恭介も“痛い”とのワードを耳に入れ、私の意図を理解してくれたようだ。
緩んでいた口元は一の字に変わり、そうっと私の肩から腕の重みが抜けた。
「……ごめん」
くしゃりとだけ頭を撫でて、恭介は私から手を引いた。
「ううん、こっちこそごめんね」
私は今しがた離れた手をとり、指を絡ませる。
『痛いこと、しないで』
ちゃんと約束を覚えていてくれた、守ろうとしてくれたことが素直に嬉しい。
「じゃあ、帰ろっか」
繋いだ手を遠足中の小学生みたいに前後に揺らす。
「あぁ」
恭介はクスリと微笑み、頷き返してくれた。
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