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第15話:色に、沈む
玄関のドアを開くなり凍ったように身を硬直させた姿を見て、あぁ似てるな、と思った。
その見事な凍りつき方は、体育館で再会したときの真琴を彷彿とさせた。
感情がすぐ顔に出るところもそっくりだ。
いつまでたっても家から出てこないことに困った俺が門に手をかけたところで、真琴の母親は我に返ったようにこちらに駆けつけてきた。
たぶん、俺みたいな柄の悪い男に自分の土地へ侵入されたくなかったんだろう。
開けて入ってきてしまわないよう、門の後ろに立ち塞がったんだ。
頬を引きつらせて俺の頭をガン見しながら。
まぁ、そのあと庭どころか家の中までお邪魔することになるんだけど。
真琴の母親はふくよかで小柄なやわらかい雰囲気を持った人だった。
服装は洗濯を繰り返してヨレたTシャツに長いスカートと地味で大人しく、たるみのある目元や口元からは人がよさそうな印象を受けた。
俺の外見を一目見るなりバリバリに警戒してきたところは小動物を思い起こさせて、ますます真琴に似ていると思った。
この親にしてこの子あり。
俺が少しでも警戒心を緩ませるために丁寧な言葉遣いで話しかけていくと、愛想笑いをするくらいには態度を和らげてくれた。
それでも、視線は相変わらずチラチラと俺の頭髪を泳いでいて、俺が帰るときまでその視線は止まなかった。
今日はありがとうございました、とお礼を言う場面でもずっと頭を見ていたものだから可笑しかった。
今でも思い出してはついクスリと笑ってしまう。
今時、髪を染めるくらい珍しくないことだ。
けど、あの真琴の母親だから古風な考え方をしていることだろう。
俺と真琴が恋人同士であることは特別口に出さなかったが、もしはっきりと告げてしまえば何かしら抵抗を見せるに違いない。
少しでも不安要素は刈っておいたほうがいい。
俺は決めたんだ。
真琴の傍にいるためならどんな手も尽くしてやると。
だから、どれだけ小さなことでも俺は行動に移した。
これ以上誰にも邪魔されたくなかった。
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