第16話:幸せという、罪

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◆ ◆ ◆ 6月になって久々に晴れたというのに通学路を行く生徒の足取りが重い。 その原因は校門にあった。 生活指導の教員が三人もいる。 抜き打ちの風紀検査が行われていた。 ざっと身だしなみをチェックする。 特に問題はないから素通りできるだろう。 私は安心して道を歩いた。 ところが。 「あ、そこの」 門を通り過ぎようとしたら後ろから男性教諭に呼び止められてしまい、心臓が跳ねる。 再度上から下まで確認して、おっかなびっくり先生の元へ。 あまり見かけたことのない人だ。 少なくとも一年生担当ではない。 何がいけなかっただろう。 身体が強張る。 「あーっと。その」 先生は何かを思い出すように額に手を当てた。 「し、し、し……」 「新橋です」 「そう! 新橋真琴だな」 フルネームを言われるとは思わず内心狼狽える。 目をつけられるようなことをした覚えがない。 どう注意されるのか身構えると、先生はパッと明るい表情になった。 「ありがとうな」 「……はい?」 心当たりがなくて目をパチクリ。 「樋口だよ、樋口」 ますます話が読めなくなった。 どうして恭介のことで感謝される羽目になるのか。 「新橋のおかげなんだろ。あいつが改心したの」 改心、と聞いて思い当たるふしが一点浮上する。 「髪の色のことですか」 恭介はこの間髪色をダークブラウンに変えたばかりだ。 とはいえ髪を染めてることには変わりないから風紀的にはアウトだと思っていたのだけどそうでもないようで、先生は嬉しそうにしみじみと語りだした。 「それもだが、最近まともに授業を受けるようになってな。掃除もきちんと参加するようになって評判なんだぞ」 そうなんだ。 でも、それが私に影響を受けてのこととは言い難い。 髪色も本人の飽き性が要因だ。 思わず目が泳ぐ。 それを見て先生があれ? と首を傾げた。 「新橋は樋口と……」 最後まで聞かずとも読み取れたので、先制して大きく首肯する。 そして恥ずかしさに体温が上昇した。 顔から火が出そうだ。 私たちが付き合ってることまで知られているなんて。 腑に落ちない。
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