第1話:黒く、染まる

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だらしない格好といい先ほどの暴力といい、彼が良識を持っているとは到底考えられない。 このまま改札を突っ切るだろうと思っていたら、彼は改札機ではなく窓口の方に足を進め、ポケットから一万円札を取り出し駅員に向かって放り投げた。 「ちょ、ちょっと!」 去り際に驚いた駅員の呼び止めようとする声が聞こえた。 でも、当然彼はそんなこと、気にも留めずに走り続ける。 ごめんなさい、と軽く駅員に向かって会釈した折に、さっきのガラの悪い輩が追いかけてくるのが視界の端に映った。 思わず、きゃっと小さく悲鳴をあげてしまう。 それにつられて彼は後ろを振り返るとますますスピードを上げ、今度は出口に向かって階段を駆け下りる。 二段飛ばしで下りるもんだから、転ばないように足を動かすのが精一杯で、どこを目指して逃げているのかなんて考える余裕は無かった。 そのままの勢いで人ごみを走りぬけ、私たちは夜の街へと飛び出した。
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