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でも、このまま流されるばかりじゃ家に帰れない。
「私の話を聞いて!」
キッと軽く睨み付ける。
すると彼はうんざりしたように左手で頭を掻いてから、私に言った。
「帰るって駅に戻るの? あいつら絶対まだあの辺うろついてるのに? 戻るにしても俺はあいつらに会いたくないから一緒に行けないし、あんたが一人で行くにしてもあいつらに会ったら確実に因縁つけられるって。それに帰る道分かんの?」
最後の方になるとイラついてるのがはっきりと分かるくらい声が荒立っていた。
恐怖心が私の不安を煽る。
私と彼はまったくの赤の他人。
それなのにどうして彼は家に帰してくれないんだろう。
どうして被害者の私がここまで馬鹿にされないといけないんだろう。
私に非はないのに……。
ツイてないにもほどがある。
「と、とにかくどこに向かってるんですか」
できるだけ彼の癇に障らないよう、抑えた声を出す。
「俺ん家だけど」
「えっ」
「いやだから俺ん家」
身の危険を感じずにはいられなかった。
でも、こういう時って変に抵抗して相手を刺激しない方がいいっていうよね……。
下手に大声で助けを求めてたり逃げ出したりしても、すぐに捕まえられるなり殴られて、口を封じられるかもしれない。
もう、彼を心配して話しかけた時点で私の命運は尽きたんだ。
なにをするにも恐怖しか見いだせなくて、目の前が真っ暗になる。
彼は私が口を噤んで何も抵抗しないことが分かると肩をつかんでいた力を緩め、早々とマンションへ私を連れ込んだ。
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